【短】僕とセンセイの秘密
誘われた細い指
今日は朝からセミが五月蠅い

…と思ったら、網戸に大きな蝉が止まっていた

「どおりで」

僕はベッドから足を出して、体を起こすとじっと蝉を見つめた

昨日の夜は涼しかったのに、なあ

今日は、暑い一日になりそうだ

僕は網戸から見える景色から、そんなことを考える

見慣れない景色

「うーん」

僕の視線は室内に戻ると、ベッドの中にいるもう一人に目をやった

素っ裸で、寝がえりをうつ

長く茶色の髪が、後からついてくるように枕の上でさらりと動いた

ベッドの横にある棚には缶ビールが3本

テーブルの上にも缶ビールが5本が転がっていた

僕はパンツを履いて、Tシャツを着ると、裸足でぺたぺたと板張りの床を歩く

あまり広くないワンルームの室内

女性の一人暮らしの部屋に僕は今、いる

「ヨク?」

コンビニ袋に3本の空の缶ビールを入れたところで、かすれた女の声が聞こえる

「何?」

僕は手を止めると、袋を床に置いてシングルのベッドに肘をかけた

「起きたんだ」

「うん」

「今日、仕事前に同伴しようか?」

「どうして?」

「だって…私の渇きに付き合ってくれたから、そのお礼」

眠そうに目を細めている

細い腕で、眩しい朝の光を遮っていた

だから…僕の顔に気付かなかった

よく見知っている…ううん、毎日のように見ている僕の顔に、彼女は気づいていない
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