灰色リリィ
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ライブは、一時間ほどで終わった。
ありがとうございました、というかすれた声が、はっきりと耳に残っていて。
あたたかさを胸に抱いたまま、私はライブハウスを出た。
「どうだった?」
不意にすぐ傍から声をかけられて視線を向けると、あのおじさんが口元に笑みを浮かべて立っていた。
口をきゅっと結んだまま何も言わない私に、怪訝そうに首を傾げる。
…この人、誰なんだろう?
そんな心の呟きが聞こえたように、おじさんはふっと笑って口を開いた。
「あ、一応このライブハウスのオーナーです」
そしてぺこりと頭を下げてくる。
慌ててそれに習うと、可笑しそうに笑われた。
「なんかスッキリした顔してるね」
「え?」
「や、声かけたとき、物凄くへこんでるように見えたからさ」
「…ああ…」
…気付いていたんだ。
「で、アイツらの演奏、どうだった?」
問われて、自然と笑顔になる。…そういえばこんなふうに笑ったの、久し振りだ。
「すごく、良かったです」
おじさんは私の言葉に嬉しそうに口元をゆるめて、暫く私の顔を見つめた後、またおいで、と優しく言ってくれた。