灰色リリィ
俺の表情が相当怖かったのか、一瞬怯んだように顔を強張らせ一歩後ずさった女の子は、それでも二本の足を踏ん張って、俺を真っ直ぐに見つめた。
「わ、私、今日はじめて、は、灰色リリィさんの歌を聞いたんですけど、すごく良くて!…胸にきたっていうか、ドキドキしたっていうか、嬉しかったっていうか…」
呆けたままの俺に、真っ赤な顔で焦ったように言葉を紡ぐ。
「で、あの…!さっきバンドやめようかなって声が聞こえて、あんな凄い音楽をやっているのにやめちゃうのは勿体無いって思って…まだまだたくさん聞きたくて、また聞きたくて…それで、」
―それで。
「わざわざ、声かけてくれたんだ?」
口から出た声は、予想以上に優しい響きで。
自分でも、驚いた。
「え、はい…。…でも、あの、でしゃばってごめんなさい…」
さっきの勢いが嘘のように、俯いて、小さくか細くなっていく女の子の声。
俺は首を振って、笑った。
…そういえばこんなふうに笑ったのは、久し振りだ。
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