灰色リリィ
「…わかった。もう少し、頑張ってみようかな」
じわじわと胸を侵食していく感情が思考回路を溶けさせて、気付けば冷静に考える事もなく口がそう動いていた。
言ったあとではっと我に帰るけれど、もう取り消すことは出来ない。
……というよりも、したくなかった。
否定すれば、俺が今感じているものすべてが幻になってしまう気がして。
俺はもう、手放したくなかったんだ。
この女の子が与えてくれた喜びと、胸の疼きを。
女の子に視線を戻すと、きゅっと目じりを下げて、花が咲いたような笑顔を向けてくる。あたたかなその表情に、口元が緩む。
誰かに認めてもらえるって、こんなに嬉しいもんなんだな。
「はい!頑張ってください!応援してます!」
目を輝かせてそう言った女の子は、ふと腕時計に視線を落とし、慌てた様子で
「それじゃ、私、帰りますね」
と言い踵を返し、公園の出口へと駆けていった。
呆然とその背中を見つめながら、俺は再び胸がじわじわと熱くなっていくのを感じていた。
ふ、と笑みが漏れる。
掌で顔を覆って、俯いた。
…駄目だ。
めちゃくちゃ、嬉しい。
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