灰色リリィ
家がすぐ傍まで近づいてきて、足を止める。
あの大嫌いだった家がもうすぐそこにあるんだと感じるだけで、怖くなるけれど。
足がすくむけれど。
今日の私は、いつもの私じゃない。
あの歌が、背中を押してくれたから。
大丈夫、って
今は自分で、自分を応援できるから。
ゆっくりと歩みを進め、家のドアの前に立ち、深呼吸した。
―…私はずっと、黒にも白にもなれない中途半端な自分が、嫌いだった。
汚いものばかり与えられた、汚い自分が嫌いで。
綺麗な笑顔を持った人を見れば見るだけ、惨めな気持ちになる自分が嫌いで。
それでもこれ以上黒に染まりたくなくて、胸に溜まった気持ちに蓋をして、苛立ちも痛みも押し込めて、ずっと知らないふりをしてた。
白になりたくて、綺麗なものを必死に求めて、もがいてた。
…でも、違うんだ。
汚れたっていい。
綺麗になれなくたって。
泣きたくなったら泣いて
叫びたくなったら、叫んだっていいんだ。
中途半端でも、いいんだ。
だって泣くことは、弱い自分を認めることは、こんなにも気持ちいいんだもの。
この世にあるのは、黒と白だけじゃない。
間があったっていい。
……あの煌めく灰色が、そう、教えてくれた。
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