灰色リリィ
吐く前の気持ち悪さみたいな重い心を抱えたまま、ズンズンと歩みを進める。
こうしてひたすら歩くことで、抱えている感情全部、消えてくれないかと思った。
あの家庭崩壊寸前の家に、親に、刻み付けられた全部がなくなってしまわないかって。
――でもそんなこと、不可能で。
それもまた、悔しかった。
いよいよ視界が歪んできて、目頭が熱くなってきたとき。
私の肩に、何かが触れた。
見ると、ごつごつした男の人の手。
眉間に皺を寄せて視線を向けると、サングラスの、いかにも怖そうなおじさんと目が合う。
びくりと肩を震わせて身構えた私に、おじさんは言った。
「君、いま暇?」
――ヤバイ。
こめかみに冷や汗が浮かぶ。突然のことに口をパクパクさせて何も言えないでいる私に、おじさんは更に言った。
「うん、この沈黙は暇ってことかな、そうだよね!じゃあちょっとこっち来て!」
と、強張る私の体を、一見の店らしき建物にぐいぐいと押していく。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「いやいや大丈夫!ただ立ってるだけでいいからさ!」
「や、でも」
「お金はいいから、とりあえず入ってみて!」
私の言葉をさらりと流し、おじさんが無理矢理押し込めた、その店は――……
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