灰色リリィ
「…ライブハウス?」
背中を押されるまま階段をくだり、地下に出た先に私が見たのは、ステージに立てられたマイクと、ドラムセット、スタンドに置かれたギターとベース。
そこは、多分50人も入らないんじゃないかというくらい小さな、ライブハウスだった。
驚きで瞬いていると、後ろから数人のグループが入ってくる。
皆どこかげんなりした顔をしていて、この人たちもさっきのおじさんに無理矢理連れてこられたのかもと思うと、哀れになった。
……私もだけど。
とにかくまあ、ヤバイお店とかじゃなくてよかったかもしれない。
何か買わされるわけじゃないみたいだし…。
丁度、親に見つからないところに逃げたかったし。
「できれば前で見てね!」
背後に立つおじさんにそう言われ振り返って曖昧に返事をすると、ハエの眼のようなサングラスが一瞬鋭く光り、気の抜けた返事がまずかったのだと思った私は全力で謝って、震える足で一番前のど真ん中へと足を向けた。
やっぱちょっと後悔してきた……。
ため息をついて、視線を落とす。
ライブハウスなんて初めてで、どうしていいか分からなかった。
ほんとに立ってるだけでいいのかな?
気になって周りを見渡してみても、まばらに立つ人もみな、ぼんやりとステージを眺めているだけで私とそう変わらない。
その姿にちょっとだけ安心感を抱きながら、私は前に視線を戻した。
その時。
突然、照明が落ちた。
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