リミテッド
「あの時さ、香奈子、“愛してた”って、過去形で言ったじゃん」


うん。


「しかも泣きながら。
…俺、前の日に店長から香奈子がバイト辞めたいって言ってるって聞いて、
でもそんな話、香奈子から何も聞いてなかったから、不安で。
だけど…怖くて、香奈子に聞けなかった」


うん。


「俺、香奈子より怖がりだ。
聞く勇気がなかったんだ。
聞いて香奈子が俺から離れるきっかけを作りたくなかった」


うん。


「俺、香奈子がいないとダメみたいなんだ」


うん。


「昨日、電話が切れてから、香奈子を探し回ったんだ。
一人で海行ったのかと思って、夜まで探したけど見つからなくて…」


うん。


「香奈子を失うかもって思ったら、正気じゃいられなかった」


うん。


「香奈子…」


顔をあげると、今までで一番優しくて、まぶしい笑顔の伸治がいて。



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