baby love
「………っ」
目を見開いて桜田くんの顔を凝視する。
声が喉でつっ掛かって出てこない。
桜田くんの何か言いたそうにしていた瞳はいつのまにか諦めの色を帯びていて、それさえもゆっくりと閉じられていく。
もう10cmほどしかない鼻先同士の距離に頭の中が真っ白になった。
「白木さん……」
呼ばれた名前に、全身がかあっと熱くなっていって。
その瞬間、
「愛菜ちゃーん!」
元気な声と共に開いた保健室のドアに、びくんと大きく震えた私はそのまま動揺のあまり座っていた椅子から転落した。
「だ、大丈夫!?」
ドスン!と大きな音を立てて床に落ちた私に、さっきとは一変して心配そうな顔をした桜田くんが私の手首は掴んだまま声をかけてくる。
いつもと同じ桜田くんに安心して、「大丈夫」とへらりと笑いながら言うとぐいっと手を引かれて。
引かれた勢いで立ち上がった私はぱっと恥ずかしさから手を払って美月ちゃんを見た。
美月ちゃんは予想通り、呆然とした表情で私たちを見ていた。