B L A S T
START『風』
あの時、あたしは風になった。
次々と通り過ぎる雑居ビルのネオンや横を走るバイクのブレーキランプがまるで流れ星みたいで、あたしは何度も願わずにいた。
そんなあたしをあなたは優しい瞳で見てくれたね。
ずっと手を繋いでくれた。
だからあたしはこの手のぬくもりが離れてしまわないようにと流れ星に祈った。
ねえ、イツキ。
くすんだ空が似合うこの街がすべてだったあたしに、あなたはとびきりの甘い夢を見させてくれた。
あたしは忘れないよ。
虹色のブレーキランプ。
風を切る白い車。
落書きだらけの壁。
絶えない笑い声。
真っ赤なソファー。
優しいぬくもり。
首筋のタトゥー。
王冠のネックレス。
甘い香りの煙草。
あなたの低い声。
あなたの笑顔。
すべてが大好きだった。
この夏。
突風のように過ぎ去ったあの日々を
あたしは忘れない――――。
BLAST
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