B L A S T
これであたしが総長だと認めてもらえたのだろうか。
ホッとしたのも束の間、それからの楓は生き地獄だった。
プレハブのリビングに入ると、タクマがにこにこと奇妙な笑いを浮かべている。
「これがBLASTのメンバー表」
そう言って、食卓に置いたのは50センチはあるだろう分厚い冊子。
恐る恐る捲ると、確かにメンバーの名前と電話番号らしきものがずらりと並んでいた。
冊子の横には電話機。
「赤いチェックで囲んでいるのは最近連絡が取れねえやつ。大変だろうけど交渉ヨロシク」
「ええっ!」
数えてみるとゆうに百人は超えている。
今から一人一人交渉したところで、たった二週間じゃ間に合うはずがない。
「無理です、こんなの!」
白い煙が宙を舞う。
向かいに腰掛けていたカズが、天井を仰いで煙草を吹かしていた。
「イツキにかかれば電話一本ですぐ済むことなんだけどよ。まあ仕方ねえわな。どっかの誰かサンがやりたいって言ってんだから」
「あたしやりたいなんて言ってないです!」
「ああ?今更投げ出すって言うのかよ」
「だってこんなの無理じゃないですか」
「お前が再来週の日曜までに人集めるって言ったんだろうが。忘れたとは言わせねえぞ、コラ」
「う…」
楓は言葉につまった。
後悔が激しく波寄せる。
あんなこと言わなけりゃよかった。
「あとトイレ掃除もヨロシク」
と言ってカズは立ち上がった。
えっ、と楓は眉をひそめる。
「トイレ掃除も総長の役目なんだよ」
タクマが笑いをこらえている。
明らかに嘘だ!
「じゃあ嬢ちゃん、頼んだよ」
「あーあ、これでやっとゆっくり眠れるゼ」
「ちょ、ちょっと!」
楓の止める声もむなしく、ドアの閉まる音が響いた。