B L A S T
そうしてリビングは、キッチンでミネラルウォーターを飲んでいたイツキと二人だけ取り残された。
時計の針が進む音だけが聞こえる。
楓は目の前の分厚い冊子を見て深いため息を吐いた。
あたしは一体何をやってるんだろう。
喧嘩はだめだと言っておきながら、いつの間にか彼らを協力する形になってしまっている。
あたしの悪い癖だ。
後先考えずに、つい感情的になって口走ってしまう。
ガヤのことだってそうだ。
――あたしガヤのそういう意地っ張りなとこ大嫌い。少しはイツキさんの気持ち考えなよ!
いつも言ってしまってから後悔する。
――あの男と関わってる限りお前はおれの敵だ。
真っ赤なペンキが飛び散ったプレハブの部屋が脳裏をよぎる。
風を操る、鬼。
同志が
消えると
思え。
やっぱりあれは―――――――――――――――――――。
「藤ヶ谷じゃない」
驚いて振り返るとイツキと目が合った。
飲み干したペットボトルをごみ箱に投げ捨てる。
「前に言わなかったか。あいつは喧嘩早いが無駄な喧嘩はしないって」
そういえばそうだ。
初めて会ったあの日、彼は確かにガヤのことをそんな風に話していた。
「安心しろ。藤ヶ谷じゃない」
イツキは小さく笑みを浮かべ、優しい瞳を向けた。