B L A S T

やっぱり不思議な人だ。

イツキのその優しい瞳を見ていると、どこか安心できる。

大丈夫だと思える自分がいた。


「それじゃ俺は上にいるから何かあったら呼べよ」

「あっはい」

「それと雑巾はそこの中にあるから」


とイツキはキッチンの下を指差した。


「あっはい」


雑巾はあの中ね。

よし。
覚えたぞ。

うん。
雑巾はキッチンの下。

雑巾。
ぞうきん。


………ゾウキン?



「あの、なんで雑巾なんですか?」


楓は恐る恐る訊いてみた。

するとイツキがきょとんとしたので、嫌な予感がした。


「なんでってトイレ掃除に雑巾は必要だろ」

「ええっ!?」


まさか本当にトイレ掃除が総長の役目だと思わなかった。

あ然とする楓を見てイツキは苦笑する。


「やると言ったからには頑張れよ」

「あ、あの!」


リビングを出ようとするイツキを慌てて呼び止めた。

食卓の上では分厚い冊子が待ち構えている。


――イツキにかかれば電話一本ですぐ済むことなんだけどよ。


「…やっぱりイツキさんが総長に向いてるかなあなんて」


えへ、と楓は笑みを浮かべるもイツキにその思惑は通じず。


「二週間後が楽しみだな」


そう言い残して彼はリビングを出て行ってしまった。

つ、冷たい。
< 133 / 398 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop