B L A S T
やっぱり不思議な人だ。
イツキのその優しい瞳を見ていると、どこか安心できる。
大丈夫だと思える自分がいた。
「それじゃ俺は上にいるから何かあったら呼べよ」
「あっはい」
「それと雑巾はそこの中にあるから」
とイツキはキッチンの下を指差した。
「あっはい」
雑巾はあの中ね。
よし。
覚えたぞ。
うん。
雑巾はキッチンの下。
雑巾。
ぞうきん。
………ゾウキン?
「あの、なんで雑巾なんですか?」
楓は恐る恐る訊いてみた。
するとイツキがきょとんとしたので、嫌な予感がした。
「なんでってトイレ掃除に雑巾は必要だろ」
「ええっ!?」
まさか本当にトイレ掃除が総長の役目だと思わなかった。
あ然とする楓を見てイツキは苦笑する。
「やると言ったからには頑張れよ」
「あ、あの!」
リビングを出ようとするイツキを慌てて呼び止めた。
食卓の上では分厚い冊子が待ち構えている。
――イツキにかかれば電話一本ですぐ済むことなんだけどよ。
「…やっぱりイツキさんが総長に向いてるかなあなんて」
えへ、と楓は笑みを浮かべるもイツキにその思惑は通じず。
「二週間後が楽しみだな」
そう言い残して彼はリビングを出て行ってしまった。
つ、冷たい。