B L A S T
その時、ドアの開く気配がした。
振り返るとイツキがそこに立っていた。
「あ、イツキさん!」
テツが慌てた素振りを見せるがイツキは気にした風もなく楓に目を向けた。
「今日はもう遅い。そろそろ帰るぞ」
「えっ、あ、はい!」
イツキから差し出された赤いヘルメットを受け取る。
彼が家までバイクで送ってくれるのだろうか。
「あの、イツキさん」
楓は玄関に向かう彼の背中に呼びかけた。
黒々とした瞳と目が合う。
「えっと、その…」
楓はさっきの話を聞かれていないか不安だった。
テツも同じだったようで、顔色を青くして彼の様子を伺っている。
するとイツキは眉をひそめ、首を傾げた。
「俺の顔に何かついてるか?」
「えっ、あ、ごめんなさい!そういうわけじゃないです」
慌ててかぶりを振る。
しかしイツキは納得できなかったのか、洗面所の鏡を見ては何度も確認していた。
その様子からして、どうやらさっきの話は聞かれてなかったようだ。
良かった。
一安心していると、イツキが思い出したように振り返る。
「トイレ掃除なら明日でいいから」
と口元を上げた。