B L A S T

――藤ヶ谷じゃない。


いつかのイツキの言葉を思い出す。


――あいつは喧嘩早いが無駄な喧嘩はしない。


もし、ガヤじゃないとすれば誰の仕業なのだろうか。

ガヤ以外に"風神"のメンバーを操ることができる人。

すると、ある男の顔が浮かぶ。


「もしかして…」


楓が302号室の扉に手をかけたときだった。

ふと背中に悪寒を感じ、振り返った。

なんだろう。

ねっとりと絡みつくような視線を感じる。

誰かに見られているみたいだ。

奥の長椅子では"風神"のメンバー二人が談笑している。

二人ともこっちを見ている様子はなく、他に人の姿は見当たらなかった。


「どうしたの?また彬兄になんか言われた?」


楓の様子を変に思ったジュンが車椅子で駆けつける。


「ううん。ちょっと視線を感じて…」

「視線?」

「でもあたしの気のせいだったみたい」


そう言って扉を閉めるけれど、胸騒ぎはおさまらない。

なんとなく嫌な予感がする。


「楓さん、気をつけてね」


えっ、とジュンに目を向けると彼はノートパソコンのマウスを操作している。

そしてそれを楓に差し出した。


「中には物騒な人もいるから」


先ほどの掲示板にずらりと並べられたその一文は二分ほど前に更新されている。


≪BLAST潰ス≫


身の毛がよだった。


「正直言うとね、僕は楓さんに総長はやってほしくない。女の子だし何かあってからじゃ遅いしさ。これも多分敵チームの仕業じゃないかな。暴走族はこうやって叩かれたり相手に狙われることなんて日常茶飯事だからね」


かつてその暴走族に殺されかけたことのあるジュンの言葉はより真実味がある。

楓は口元を引きつらせた。

自分の軽率な行動にほとほと呆れる。

ガヤの言うとおり、あたしって本当にバカだ。
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