B L A S T
ふと、またあの視線を感じた。
蛇のようにねっとりと絡みつく視線。
辺りをきょろきょろ見渡してもそれらしき人はいない。
気味が悪い。
もうやだ、早く家に帰りたい。
楓は通話ボタンを押した。
その時だった。
「いたぞ!女だ!」
それは病院に面した道路の向こうから突然やってきた。
雨に濡れながらパンダナで顔を隠した複数の男が走ってくる。
なんだろう。
ざわざわと胸が騒ぐ。
先頭の男が何やら大声で叫んでこっちを指差す。
雨が小ぶりになり、その声ははっきりと聞き取れた。
「BLASTの女だ!野郎ども捕まえろ!」
――ええっ!
あたし!?
今朝見た夢が脳裏を過ぎ去る。
黒い闇に追われるあの悪夢。
逃げて逃げて、最後にあたしは黒い闇に覆われてしまう。
まさかその夢が現実になるなんて。
「待て、女あ!」
雨の中を必死に逃げ回る。
「きゃっ」
が、運の悪いことに水の重みで足をとられて転んでしまった。
慌てて立ち上がるも鋭い痛みが走り、思わず顔を歪めた。
膝小僧に血が滲み出ている。