B L A S T
どうやらあたしはとんでもないスイッチを押してしまったようだ。
川の向こうから鬼のような形相をした男たちがやってくる。
さすがの桃太郎もきっと退治できないだろう。
だって人の数が多すぎる。
「楓、逃げろ!」
後ろでガヤの声が聞こえた。
でも足が動かない。
迫り来る敵に怯えて、膝小僧ががくがくと泣いていた。
もうだめだ。
このままあたしは奴らに殺されるんだ。
目を閉じて諦めたときだった。
「ハハッ…」
この場に似つかわしくない笑い声が響いた。
えっ、と楓は思わず振り返る。
そして目を疑った。
「あんたやっぱり面白いな」
笑っていたのはイツキだった。
楓は信じられないものを見るようだった。
だってあのイツキが声を上げて笑い転けているのだ。
その笑顔は無邪気な少年のようにどこかあどけない。
楓が呆然としていると、
「おいおいお前。こんな時になに笑ってんだよ」
ガヤが呆れたようにため息を漏らした。
「まあこいつの笑い上戸はいつものことだけどよ」
そう言いながらその口元に笑みが浮かぶ。