B L A S T

恋をすると胸が痛くなるというけれど、それは傷付いたときの痛みと似ていると思った。

ズキン、と恋するよりもはるかに胸が痛い。


――楓のこと、ちゃんと大事にしろよ。


イツキがガヤに向けたあの言葉はきっとイツキの気持ちなのだろう。

彼はあたしのことなんて何とも思っていない。

親友であるガヤの幼なじみとしてあたしを見ている。

今まで優しくしてくれたのもみんな、あたしがガヤの幼なじみという存在だから。

あたしが一方的にイツキのことを想っているだけ。

片思いは初めてじゃないけれどこんなにも心が苦しいものだなんて知らなかった。





「───さん。楓さんてば!」


気が付くとパールホワイトの車が目の前に停まっていた。

時計の針はちょうど深夜の0時を差している。

これからパレードとやらに行くらしいのだけれど、楓はなかなか車のドアを開けることができずにずっと突っ立っていたままだった。


「どうしたの、乗らないの?」


ジュンが心配そうに眉を寄せている。

楓はかぶりを振った。

スモークガラスの向こうには彼がいる。

今はなんとなく彼と顔を合わせたくない気分だった。


「…あたし、やっぱり帰るね」

「えっ!ちょ…楓さん!」


引き返そうとすると、ジュンに行く手を阻まれた。


「急にどうしたの?具合でも悪いの?」


うつむき加減に、首を左右に振る。


「パレード行きたくないの?」


また首を振る。

ジュンは困り果てていた。

車を取り巻いていたメンバーもテツを筆頭にちらちらとこちらの様子を伺っている。

やだ。

これじゃあ今のあたし、まるで駄々こねた子どもみたいだ。

ジュンやメンバーはパレードを楽しみにして来ているのに、あたしはそのムードを壊そうとしている。

俗にいうKYの他でもなんでもない。

でも正直、今はパレードなんてどうでもよかった。

それだけ傷付いたのだ。

彼のあの言葉に。
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