B L A S T
Act.19
「最近、楽しそうだね」
夏休みも間近。
放課、保健室でコーヒーを飲んでいたら、江原先生がそんな事を言ってきた。
にこにこと大きな目を細めている。
「あたしがですか?」
楓が訊くと江原先生は頷いた。
「何かいいことでもあった?」
楓は慌ててかぶりを振る。
「いいことっていうか、貴重な経験をさせてもらったっていうか…」
心当たりはあるが、江原先生にはとても言えないことだ。
まさか「昨日の夜暴走族と暴走してました」なんて言った暁には停学、いや下手したら退学決定だ。
まさかパレードが暴走という意味だとは思わなかった。
しかも警察に追われるなんてそこらの女子高生にはなかなか体験できないことだろう。
何にせよ捕まらなかったのが幸いしたけれど、身も心も疲れ果てていた楓を尻目に何事もなかったかのように笑い合っていた彼らの度胸には負けた。
ジュンなんて、
――今日のパレードは楽しかったね。でももうちょっとスピード欲しかったな。
なんて言い出す始末。
ジュンって実は天然なのかもしれない。
というより大物?
とにかく昨夜限りでパレードはもう二度と行かないと誓った楓だった。
「ふうん。その貴重な経験ってもしかして恋?」
「ぶぅえ!」
思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになる。