B L A S T

「それが何でもないって面か」


楓は押し黙った。

ガヤはまた一息を吐くと、楓の肩を掴んでいた手を離した。


「何年一緒にいると思ってんだよ。お前のそのブサイクな顔見りゃあ、なにかあったってことぐらいは分かる」


掴まれたところが熱い。

口は悪いけれど、ガヤが本気で心配しているのが伝わる。


――今のあたし、

どんな顔しているんだろう。



「あなたが真田楓さん?」


ふいに甘い香りが鼻先をかすめた。

それは楓がよく知っている、イツキの煙草の匂いだ。

すぐさま辺りを見渡すが、目に入ったのはイツキではなく、いつの間にかあの女の子がガヤの後ろに立っていた。

長い睫毛を瞬かせて、こちらをじっと見上げている。


「あなたが真田楓さん?」


と彼女は言った。

突然話しかけられて驚いた楓は


「は、はい!」


つい声が裏返ってしまった。

ふふ、と彼女が大きな目を細めて笑う。

なんだか恥ずかしくなって縮こまった。


「誰だ、てめえ」


彼女にガヤが鋭い眼差しを向ける。

どうやらガヤは彼女のことを知らないようだ。


「あっ申し遅れました。私、由希と言います。イツキがいつもお世話になってます」


と由希という女の子は深々と頭を下げた。


「確かあなたは藤ヶ谷彬さん、ですよね」


名指しされたガヤは目を丸くする。


「なんで俺の名前知ってんだ」

「イツキから色々と噂聞いてます」


そう言って由希は楓に目を向けにっこりと笑った。


「楓さんのことも」
< 221 / 398 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop