B L A S T
「それが何でもないって面か」
楓は押し黙った。
ガヤはまた一息を吐くと、楓の肩を掴んでいた手を離した。
「何年一緒にいると思ってんだよ。お前のそのブサイクな顔見りゃあ、なにかあったってことぐらいは分かる」
掴まれたところが熱い。
口は悪いけれど、ガヤが本気で心配しているのが伝わる。
――今のあたし、
どんな顔しているんだろう。
「あなたが真田楓さん?」
ふいに甘い香りが鼻先をかすめた。
それは楓がよく知っている、イツキの煙草の匂いだ。
すぐさま辺りを見渡すが、目に入ったのはイツキではなく、いつの間にかあの女の子がガヤの後ろに立っていた。
長い睫毛を瞬かせて、こちらをじっと見上げている。
「あなたが真田楓さん?」
と彼女は言った。
突然話しかけられて驚いた楓は
「は、はい!」
つい声が裏返ってしまった。
ふふ、と彼女が大きな目を細めて笑う。
なんだか恥ずかしくなって縮こまった。
「誰だ、てめえ」
彼女にガヤが鋭い眼差しを向ける。
どうやらガヤは彼女のことを知らないようだ。
「あっ申し遅れました。私、由希と言います。イツキがいつもお世話になってます」
と由希という女の子は深々と頭を下げた。
「確かあなたは藤ヶ谷彬さん、ですよね」
名指しされたガヤは目を丸くする。
「なんで俺の名前知ってんだ」
「イツキから色々と噂聞いてます」
そう言って由希は楓に目を向けにっこりと笑った。
「楓さんのことも」