B L A S T
楓は顔を隠すようにそっぽを向いた。
そんなこと言われなくてもあたしが一番よく分かっている。
自動ドアのウィンドウに映る自分は自分じゃないみたいだ。
だけど笑っていないとあたしはどうにかなってしまいそうだった。
胸が張り裂けそうに痛い。
「それにしてもあの女が言ってること本当かよ。初めて聞いたぜ」
楓はそっぽを向いたまま呟くように言った。
「…さっきイツキさんと一緒にいるとこ見た」
ふうん、とガヤ。
「あいつも水くせえ男だな。女いるなら女いるって言ってくりゃいいのによ。あの秘密主義ヤローが」
ガヤはそばにあった長椅子に勢いよく腰掛けると、Gパンのポケットから煙草を取り出した。
イツキと吸っているものとは違う銘柄だ。
「ガヤ。ここ病院」
と楓はすぐさま注意した。
「…ああ、そいや禁煙だっけ」
チッ、と舌打ちを鳴らして渋々と煙草を元に戻す。
それからガヤは落ち着かない様子でしばらく右足を揺すっていた。
「じゃあたしそろそろ帰るね」
「は?昼飯は」
「いらない。ガヤが食べて」
「んだそれ。せっかく買ってきてやったのに」
「ごめん。純平くんによろしく言っておいて」
「おい、楓」
ガヤに呼び止められた楓は自動ドアの前で振り返る。
「なに」
「話はまだ終わってねえぞ」
「…なによ」
ガヤは少し間を置いて言った。
「あいつか」
「えっ」
「お前にそんな顔させてんのはイツキが原因か」