B L A S T
Act.20
病院から少し離れたところに海がある。
海水浴のシーズンがもうすぐ近付いてくるためか浜辺には海の家が仮設されていた。
「もう夏か…」
海の向こうを眺めながら楓は小さく呟く。
すると首筋に何か冷たいものを押し付けられ驚いて振り返ると缶を持ったガヤがいたずらをした少年のような笑みを浮かべていた。
「ほらよ。ミルクティー。好きだろ、お前」
「…ありがと」
受け取った缶はひんやりと冷えている。
ガヤはソーダを買ってきたらしく一気に飲み干すと、大の字になってその場に寝転んだ。
いくつもののピアスが太陽の光に反射して輝いている。
「懐かしいな、ここ」
楓はガヤに目を向ける。
「前に来たことあるの?」
「ああ、昔イツキとな」
「そうなんだ…」
「ここでお前の話したことあるよ」
「えっ…なんで?」
「さあなんでだっけな。昔のことだから覚えてねえや。とにかくイツキはお前のこと昔から知ってたよ」
楓はイツキと初めて会ったときのことを思い出した。
――楓、といったな。
拉致されたあの日、教えた覚えはないのに彼はあたしの名前を知っていた。
「どうせ生意気な幼なじみがいるとかそういう話でもしたんでしょ」
卑屈交じりに言うと、ガヤは小さく笑った。
「まあそんなとこだな」