B L A S T
――簡単に言わないでよ。
そう言い返したくなったけれどその言葉を飲み込んだ。
ガヤの言うことはもっともだったからだ。
例え結果がどうであろうと怖がらずに踏み出せばいい。
今のあたしに足りないのは最初の一歩を踏み出す"勇気"。
いつになく真剣なガヤの眼差しに、楓はしばらく目が離せないでいた。
やがて手の甲に冷たい雫が滴り落ちる。
ぽつぽつと降り始めた小雨。
チッ、とガヤが舌打ちを鳴らした。
「行くぞ」
雨に濡れながらガヤと楓は防波堤に停めていたバイクに向かって走り出す。
「ガヤ」
楓はヘルメットを被りながら目の前の背中に呟いた。
「ありがとね」
言葉に出さないけれど、ガヤが気遣ってここに連れてくれたことは分かっていた。
そのおかげでさっきより少し心が軽くなった気がする。
「別にお礼言われるようなことしてねえよ」
ブルル、とエンジンがかかる。
少し照れくさいのか、返ってきたその声はどこかぶっきらぼうだ。
「それに…」
次第に強くなる雨音とエンジン音に紛れて、ガヤは小さな声で言った。
「おれが言えたことじゃねえしな」
楓は小首を傾げる。
「どういうこと?」
「なんでもねえ。病院戻るぞ。ちゃんとつかまってろ」
「…うん」