B L A S T
302号室ではジュンとイツキがベッドを挟んでチェスで遊んでいた。
「チェックメイト」
楓とガヤが入ってすぐに、イツキの低い声はそのゲームの終了を告げた。
「また負けたー!一兄強すぎるよ。少しは手加減してよ」
「ジュンが弱すぎんだよ。もうちっと強くなってから出直してこい」
「ちぇー」
頬を膨らましてふてくされているジュンの様子が面白いのか、イツキは肩を揺らして笑っていた。
なんだか悔しい気分だ。
諦めると言っておきながら、彼の笑った顔を見ただけで高鳴るこの鼓動は正直者だと思う。
「楓さん」
気が付いたジュンが心配そうに駆け寄ってきた。
「今までどこに行ってたの?大丈夫?」
「ああごめん。ちょっとガヤとそこの海まで散歩行ってた」
「泳いできたの?なんか髪の毛濡れてる」
「あ、これはさっき雨が降ってたから…」
すると白いタオルが目に入る。
「風邪引くぞ」
そう言ってイツキはタオルを楓の頭に被せた。
「あ、ありがとう…」
タオルにほのかな甘い移り香が染み込んでいる。
どこか安心できるその匂い。
あたしは一度人を好きになるとしつこいのかもしれない。
やっぱりイツキのことを諦められないと思う自分がいた。