B L A S T

302号室ではジュンとイツキがベッドを挟んでチェスで遊んでいた。


「チェックメイト」


楓とガヤが入ってすぐに、イツキの低い声はそのゲームの終了を告げた。


「また負けたー!一兄強すぎるよ。少しは手加減してよ」

「ジュンが弱すぎんだよ。もうちっと強くなってから出直してこい」

「ちぇー」


頬を膨らましてふてくされているジュンの様子が面白いのか、イツキは肩を揺らして笑っていた。

なんだか悔しい気分だ。

諦めると言っておきながら、彼の笑った顔を見ただけで高鳴るこの鼓動は正直者だと思う。


「楓さん」


気が付いたジュンが心配そうに駆け寄ってきた。


「今までどこに行ってたの?大丈夫?」

「ああごめん。ちょっとガヤとそこの海まで散歩行ってた」

「泳いできたの?なんか髪の毛濡れてる」

「あ、これはさっき雨が降ってたから…」


すると白いタオルが目に入る。


「風邪引くぞ」


そう言ってイツキはタオルを楓の頭に被せた。


「あ、ありがとう…」


タオルにほのかな甘い移り香が染み込んでいる。

どこか安心できるその匂い。

あたしは一度人を好きになるとしつこいのかもしれない。

やっぱりイツキのことを諦められないと思う自分がいた。
< 230 / 398 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop