B L A S T
「イツキくんは誰にでも優しいんだな」
楓はぎょっとする。
突然ガヤが薄ら笑いを浮かべてそんなことを言い出した。
「優しさは時に人を傷付けるもんなんだよ、イツキくん」
ガヤはイツキの手にあったもう一枚のタオルを奪い取ると、雨で濡れた手足をごしごしと乱暴に拭いた。
まるで小馬鹿にしているかのようなガヤの言い方に、イツキの表情が険しくなる。
「…何が言いたい」
「別に」
彼らはしばらく見つめ合っていた。
というよりも睨み合っていたと言ったほうがいいのかもしれない。
彼らの醸し出す険悪な雰囲気に楓ははらはらしながらその様子を見守った。
「あの女…」
とガヤが口を開いた。
「あの赤毛の女。お前の女なのかよ」
楓はどきり、とする。
それから恐る恐るとイツキに目をやった。
「…由希のことか」
イツキは表情を変えることなくガヤをじっと見つめていた。
彼の口から出た名前にさえも少し嫉妬してしまうあたしはなんて心が狭いのだろう。
「お前あんなのが好みなんだ。趣味悪りいな」
「ちょっとガヤ!」
どう見てもガヤはイツキに喧嘩を売っているとしか思えない。
楓がきつく睨みつけたが、ガヤはその視線を無視してそのまま続けた。
「あの由希って女とデキてんのか?」
「…お前には関係ない」
「んなつれねえこと言うなよ。どこで知り合ったんだよ。おれ見たことねえ顔なんだけど」
イツキは吐息をついて答えた。
「どこで知り合おうが俺の勝手だ。お前には関係ないよ」