B L A S T
――お前、ちっとも変わんねえのな。
何気ない一言だった。
だけどそれはイツキにとって。
「俺が、俺でなくなればいいのに。ずっと思ってたよ。でもどんなに願ってもそれはただの悪あがきでしかない」
煙草を持つ手がかすかに震えている。
それからイツキは何度も繰り返し呟いた。
変われるものなら変わりたい。
でも変わらないんだ、と。
そう何度も、何度も。
かろうじて立っているのが精一杯だったおれは遠くでその声を聞きながら、昔のことを思い出していた。
――なあ、彬。
ここであの約束を交わした時のことだ。
――いつか頂点に立つぞ。
そう言って笑みを浮かべたイツキはどこか格好良くて、おれはその時初めて武者震いというものを感じていた。
心のどこかでイツキは無敵だと信じていたのかもしれない。
気が付けばおれはいつもイツキの後ばかりを追っていた。
やっと追いついたと思ってもイツキはすでにもう一歩先を走っていて、おれにとってイツキは遠く、それでいて憧れる存在だった。
何をするにもイツキには叶わない。
でも目標があるからおれは走れる。
そう思っていたのに。
「いつかその時が来る。俺はその時をただじっと待っていることだけしかできないんだ」
もどかしいよ、とイツキは弱々しく笑った。
髪が靡く。
灰が風に乗って海へと散っていく。
波が静かに泣いていた。
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