B L A S T
卓球のボールが飛び交わる音と歓声が聞こえる。
体育館でメンバーが集まっているようなのでちらりと中の様子を伺うが、イツキの姿はなかった。
続けてプレハブの窓からも中を覗き見する。
部屋に明かりはなく、人の気配は感じられない。
玄関の鍵もかかったままだ。
イツキはまだ来てないのだろうか。
――イツキは来ねえ。しばらくの間、おれが総長代理をやることになった。
よく考えたらガヤに総長代理を任せた以上、イツキがここにいる必要がないんだ。
「どうしよう…」
楓は頭を抱えた。
せっかく来たのに無駄足だ。
ドアにもたれかかり俯いていると、目の前が暗くなった。
「そこで何やってるんだ」
聞き慣れた低い声。
驚いて見上げると、そこにはイツキの姿があった。
「イツキさん…」
どこか違和感を覚えたのはきっとイツキの髪色が変わったからだろう。
金髪になって彼の白い肌が映えてみえるが、なんだか見慣れない。
「一人で来たのか」
楓が小さく頷くと、イツキは困ったようにため息を吐く。
「彬から話聞いてないのか。一人でここに来るとまたセイジにさらわれるぞ」
「…知ってます。でもみんなに会いたかったから」
本当のことを言えばイツキに会いたかったのだけれど。
と本人に言えるはずもなく、何も知らないイツキは困ったように笑うとドアの鍵を開けた。
「まあいい。入れ」
しかし楓は少し躊躇って玄関の手前で足を止めてしまう。
その様子を変に思ったのか、イツキは小首を傾げた。
「どうした。入らないのか?」