B L A S T
「あなた…」
楓の顔を見たとたん、彼女の表情が険しくなる。
「あなたまた来たの」
「…はい」
「私言いませんでしたっけ。もう二度とイツキに近づかないようにとあなたに話したと思うんですけど」
「それは…」
楓はちらりとイツキを見やる。
イツキは何も知らない様子できょとんとしていた。
「とにかく早くここを出てくれない?目障りなの」
「由希」
しばらくして状況を把握したイツキが慌てて間に入る。
「由希。お前楓に何を言った」
「別に何も」
「嘘つけ。何を言ったんだ」
イツキに腕を強く掴まれ、由希は顔をしかめた。
「イツキの前から消えて。そう言っただけよ!」
一瞬の間。
楓が気が付いたときにはイツキが右手を振り上げているところだった。
煙草が落ちる。
「――イツキさん!」
――パシンッ!
急いで止めるもむなしく、月夜の空に乾いた音が響いた。
「…ッ…イツキまで。何するのよ!」
由希の左頬は真っ赤に腫れ上がっている。
「楓に謝れ」
「なんで私が…」
「由希」
「嫌」
「由希!」
イツキの怒鳴り声に思わず肩をすくめた。
普段は温厚な彼が本気で怒っている。