B L A S T
「…な…んで…」
由希の大きな瞳がみるみるうちに涙で潤んでいく。
「わ…私は…」
そして泣き叫んだ。
「私はイツキのためを思ってやっただけなのに!」
蝉の鳴き声が騒がしくなる。
イツキは黙って暗闇の中に消えていく由希の後ろ姿を見送っていた。
「…いいんですか?」
彼女を追いかけようとしないイツキに恐る恐る聞くと、
「いいんだ」
と彼は呟く。
それから二本目の煙草に火を灯すと、灰色の煙を大きく吐き出した。
甘い香りが漂う中、イツキと楓の間には気まずい沈黙が流れている。
イツキは一体何を考えているんだろう。
彼女のことを放っておいて大丈夫なんだろうか。
変わらない表情からは、何の感情も感じられない。
だけど、あたしは最低だ。
心のどこかでこのようなことになったことを喜んでいる自分がいる。
「楓」
ふいに名前を呼ばれ、イツキを見上げた。
彼はドアのそばにあった青いバケツの前にしゃがみこむと、雨水が貯まっているその中に灰を落とした。
「悪い。俺、今からちょっと行かなきゃならないところがあるんだ」
楓は戸惑う。
行かなきゃいけないところってどこなんだろう。
やっぱり彼女を追いかけていってしまうのだろうか。
「それと…」
楓が塞ぎ込んでいると、イツキは静かに切り出した。
「もうここには来ないでくれ」