B L A S T
その目線の先にあるプレハブの中から出てきたのは、彼。
「…一樹」
イツキは江原先生としばらく見合ったまま微動だにしない。
二人がどういう関係なのか未だ聞かされていない楓はその光景が奇妙に思えた。
「お母さん」
と由希が間に割り込んだ。
「私、帰らないから。私イツキと一緒にいる」
江原先生は眉をひそめる。
「由希、何言ってるの。あなた覚えてないかもしれないけど、一樹は…この人はあなたの」
「知ってるよ。イツキに聞いたから」
えっ、と江原先生はイツキに目をやった。
沈黙が漂う。
それまで黙っていたイツキがため息交じりに言った。
「由希。今日はもう帰れ」
「でも…」
「さっき話したろ。俺にはやらなきゃならないことがある」
「やらなきゃならないことってなに?また喧嘩するの?」
「……」
「ねえイツキ分かってるの?喧嘩なんかしたらまた――」
「由希」
イツキの表情が険しくなる。
その冷たい眼差しに由希は怖じ気づいたのかごめんなさい、と小さく呟いた。
「…失礼します」
イツキは江原先生に軽く会釈すると、そばに停めていたパールホワイトの車に向かおうと玄関前の階段を下りる。
「久しぶりね」
すると江原先生が彼を呼び止めた。