B L A S T
「さっさと出てこい」
観念した楓は男の声に促されてドアノブに手をかけた。
すると勢いよくドアが開き、引っ張られそうになった楓の体は前によろめいた。
目に入ったのは男物の革靴。
グレーのズボンと着崩したカッターシャツに、
紺色のネクタイ。
手に握られているのはなぜかバスケットボール。
そして恐る恐る見上げると、そこには――――。
「なんで女がここにいる」
目を丸くした男の顔があった。
ストレートの黒髪がよく似合う端正な顔立ち。
まるで柴犬のような黒目をぱちぱちと瞬きをさせながら、男は呆然としていた。
楓も想像していたのとは全く違って、男がどこにでもいる普通の男子生徒に見えたことに呆気にとられた。
二人の間に長い沈黙が続く。
しばらくしてより激しくなった雨音で我に返ったのか、男から口を開いた。
「お前、誰の女だ」
えっ、と楓は眉をひそめる。
「タクマの女か」
違います、と楓は慌てて首を横に振った。
「カズか」
さらに首を横に振る。
「じゃあ誰の女だ」
誰の女でもないです。
と答えたいが、うまく声が出ない。
タクマとカズを知っていることから、やはり男はここの仲間らしい。
一見、普通の男子なのに人は見かけによらないものだ。