B L A S T
突然、部屋中が地響きに包まれた。
驚いた楓が目を開けると、前の机で昨夜飲んだジンジャーエールの缶がカタカタと音を鳴らしている。
「…あのバカ」
人がせっかく気持ちよく夢の中に入ろうとしているのに、朝っぱらからこんな非常識な爆音を出すのはあいつしかない。
近所迷惑だ。
楓は起き上がり、怒りに任せて窓を勢いよく開けた。
「バカガヤ!朝からバイクをふかすな!近所迷惑だって何度言ったら分かるのよ!」
細い道を挟んで向かい側の車庫から制服姿の男が現れた。
剃り込みのラインが入った栗色の坊主頭に、一重瞼の鋭い目。
着崩したカッターシャツの胸元からは、王冠の形をしたネックレスが朝日に反射して光っていた。
男はにたにたとうす気味の悪い笑みを浮かべて、こっちを見上げている。
まーた来た。
そう言いたげな顔だ。
「お前のそのでけえ声のほうが近所迷惑だから」
そう言って藤ヶ谷彬こと"ガヤ"は中指を立てた。
その挑発を受けた楓はもちろん黙っていられない。
「あんたがそんなことしなけりゃ、あたしだって朝っぱらからこんな大声出さないわよ!知ってる?ここのみーんな、あんたのそのバイクの爆音のせいで寝不足なんだから!
毎回毎回心臓に悪いのよ、その音!迷惑!」
「じゃあ連れてこいよ」
「誰をよ」
「"ここのみーんな"。連れてくれば?おとなしく説教聞いてやるよ」
ガヤは低い声で言った。
笑っているのに目が笑ってないのはきっと気のせいではない。
連れていくわけがない。
ガヤがおとなしく聞くはずがないことを幼なじみの楓がよく知っていた。
「楓」
みんながガヤに関わりたくない理由。
「早く学校行くべ」
それは彼の鞄から見え隠れする特効服が物語っていた。