B L A S T

押し黙る楓に、男は質問を代えた。


「じゃあどこから入ってきた」


そのため息交じりの声からは男の苛立ちがひしひしと伝わる。

男は両手でバスケットボールを交互に行き来させながら、左足を揺すっていた。

ふと、楓は気が付いた。

もしや。
さっきの音はもしかして。

床下に目をやると、鏡の欠片が無残にも飛び散っている。

案の定、鏡を失った白い壁にはボールを投げつけたような丸い跡があった。


「どこから入ってきたのかって聞いてるんだ」


男の口調が少しだけ荒々しくなった。

背中に悪寒が走る。

目の前にいるこの人は、もしかしたらタクマやカズよりも恐ろしいかもしれない。

やばい。
黙ってると殺される。

楓は声を振り絞って答えた。


「タクマ、さんとカズさんに連れられて…」


間が空いた。


「そういや裏にアシ使った跡があったな」


そう呟いて、男は窓を開ける。

雨飛沫が中に入り、床下はあっと言う間に水浸しになった。

そしてズボンのポケットからおもむろにケータイを取り出し、通話ボタンを押す。


「ちょっと来い、体育館のトイレだ」


その一言だけを発すると、男はすぐに電源を切った。
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