B L A S T
「それで勝手にアシ使ってこの女をどうした」
楓に向けて男は顎をしゃくる。
「それは――」
タクマが口を噤んだ。
何かを言い出そうとしているが迷っている様子だった。
「ナンパのためとか言うなよ。この女が誰かに助けを求めてたのを俺はちゃんと聞いてた。てっきりまた別のチームの野郎が紛れ込んだと思っていたから、女がいて驚いたよ」
それを聞いて、楓はそれまでの男の行動全てに納得がいく。
足元に散らばった鏡の欠片は男なりの威嚇だったのだろう。
カズの鋭い視線が痛かった。
きっと助けを呼んだことに対して怒っている。
楓は決して目を合わせないようにした。
そしてずっと押し黙ったままのタクマとカズに、男がうんざりした様子でため息を吐いた。
甘い煙草の香り。
「悪かったな」
ふいに、男の目が楓に向けられた。
その優しい声に戸惑った楓は首を横に振る。
本当は謝っても許されないことをされたはずなのに、男の目を見ていると何も言えなくなってしまった。