B L A S T
おれは耳を疑った。
「…なんだって?」
「確かにお兄ちゃんのがんは進行していて手術をしても助かる見込みは少ないって言われました。でも今日病院から電話がかかってきて、いい先生を紹介してくれたんです。その先生は過去に手術をして何人もののがん患者を救ったことで有名な方で。だからもしかしたらお兄ちゃんも助かるかもしれないんです」
それは奇跡を待っていたおれにとって、願ってもいないことだった。
手が小刻みに震えている。
「それ、本当か」
由希が頷く。
「だから、お願いですからお兄ちゃんを止めてください。これが唯一のチャンスなんです。お願いします!」
ふいに、おれは楓の涙を思い出した。
ーーイツキを死なせたくない。
泣いている楓の姿を見て、その気持ちがより一層強くなっていた。
本当のことを知られた以上、もしイツキがいなくなるようなことがあれば一番辛い思いをするのは楓だと思うからだ。
そしておれはそんな楓の姿を絶対に見たくない。
あいつの悲しい顔を見たくない。
おれは激しく葛藤していた。
イツキだってきっとそれなりの覚悟があって、自分の道を決めたに違いない。
だからおれはあいつの生き方に口出ししないようにしてきた。
それがイツキのためになると思ったからだ。
けど…
果たしてそれが本当にイツキのためになるのだろうか、と疑問符が脳裏を過ぎる。
おれのやっていることは正しいのだろうか。
間違っているんじゃないのだろうか。
確かに自分がイツキにしてやれることは何もねえ。
でも何もしないでただ時間が過ぎるのを待つのは、ほんの一握りの可能性を潰している気がしてならねえ。
例え結果が悪かったとしても。
おれがあいつのために何をしてやれたか。
あいつのために、おれがどう動いたか。
それが、
一番大事なことなんじゃねえのか。