B L A S T
楓が入れたコーヒーの湯気が白く立ち上る。
由希はそれを一口飲むと、肩で息を吐いた。
「それでーー」
そして、彼女は静かに切り出す。
「…お兄ちゃんのこと、なにか分かった?」
長い沈黙。
やがて楓は唇を噛みしめ、小さくこくりと頷いた。
「そう…」
由希は目を伏せて、コーヒーの入ったマグカップをただ見下ろしていた。
元はと言えば、彼女の言葉がきっかけだった。
ーー…なんでお兄ちゃんだけ。私は、お兄ちゃんには幸せになってほしいのに。なんでお兄ちゃんだけが辛い思いをして我慢しなきゃならないの。
今なら分かるあの言葉の意味。
あの言葉がなかったら、あたしはあのビルに行くことはなかった。
「…ありがとう」
楓がそう言うと、由希は驚いたように目を丸くした。
「なんであなたがお礼を言うのよ」
「だって由希さんがああ言ってくれなかったら、あたし、イツキさんのこと何も知らないままだった。だから、ありがとう」
「…そんなこと、私、お礼なんて言われるようなことした覚えないわよ」
ため息を吐いて、そっぽを向く彼女の横顔にどこか照れ臭さが混じっている。
案外この人は悪い子じゃないのかもしれない。
ただ少し不器用なだけで、お兄さん想いなんだ。
そういうところもイツキとよく似ていて、ふたりはやっぱり兄妹なんだなと思わせた。