B L A S T
男は煙草を口にくわえながら、取り出したケータイでなにやら連絡を取り始めた。
通話を切ったと同時に、
「来い。すぐに車を呼ぶ。それで帰れ」
投げかけられた男の信じられない言葉に目を丸くする。
まさか。
こんなにあっさりと帰れるなんて。
すでに出入り口に向かっていた男の後を追うと、彼はすれ違いざまにタクマとカズに小さく呟いた。
「女さらって楽しいか。やることが卑劣なんだよ」
カズの大きな目がさらに大きく開かれる。
「――んだとッ」
今にも男に殴りかかりそうなカズの勢いに空気がピリッと張りつめた。
しかしタクマが間に入ったことでそれはすぐにおさまった。
「おい、イツキ!」
男の背中に向けてタクマは叫んだ。
男が足を止める。
「なんだ」
思わず、楓は耳を疑った。
――イツキは総長なんだよ、嬢ちゃん。
まさか目の前のこの人があの"イツキ"だとは。
男に対するタクマとカズの態度を見ていると薄々はそうなんじゃないかとは思っていたけれどやっぱり信じがたいものがあった。
男は一見ごく普通の男子高校生だ。
とても暴走族のトップとは思えない。
本当に人は見かけによらないと思った。