B L A S T
気が付けば、雨足は遠のいていた。
おれの目の前は港沿いにある工場がずらりと並んでいる。
辺りは外灯もなく暗闇で、奇妙なほど静寂に包まれたそこはお化け屋敷のようにどんよりとして気味が悪い。
「本当にここにセイジの野郎がいるんだな」
おれは隣にいるタクマに目をやった。
「ああ。恐らくトラックの手前にあるあの工場だ」
その横でテツが何度も頷いている。
おれは一つ気がかりなことがあった。
周りを見渡すが、それらしき人物は見当たらない。
「おい、イツキはどうした」
ふいにタクマの表情が曇る。
「それが…後を追ってたメンバーの話によると、ここに入る直前に見失ったらしい。まあ、あのスピードだ。最後までぴったり付いて行くほうが無理な話だ」
チッ、とおれは舌打ちを鳴らした。
イツキのことだ。
どっかに潜んで、セイジの出方を待っているに違いないねえ。
それまでに何としても先にセイジを見つけねえと。
その時、流行遅れの着メロが鳴った。
テツのケータイだ。
「藤ヶ谷さん。配置終わりましたス。いつでも踏み込む準備できてますよ」
それはスタートの合図だった。
「よっしゃ。行くか」
おれは水たまりのある地面を駆け抜けた。
今思えば、その時のおれは焦り過ぎていたのかもしれない。
イツキのことで頭がいっぱいで、セイジの戦略にまんまと陥っているとは微塵も思っていなかった。