B L A S T
忍び足で工場の中へと入っていく。
そこには大量の瓶が天井まで積まれていて、アルコールの匂いが鼻についた。
ーーこれは倒れられたら一発だな。
おれは後ろに続くタクマとテツに目配せをし、慎重に前を進んだ。
「…ゃねー…よ…」
その時。
聞き覚えのある声がおれの耳に届いた。
「おい、藤ヶ谷。あの声」
「シッ。分かってる」
おれは息をひそめ、声のする方に向かう。
「お前、このオレをこんな目に合わせやがって。絶対ブン殴ってやる!」
それまで所々だった声が明確に聞こえてきた。
ーーあそこだ。
やっぱりその声の持ち主はおれの予想していたとおりだ。
「おいコラ、セイジ!てめえ聞いてんのかよ!こんなことしてただですむと思うなよ!」
皮張りのソファでくつろいでいるセイジに突っかかっていたのはカズだった。
カズは縄で縛られた状態で路上に横になっていたが、元気な姿におれはとりあえず一安心した。
あとは数人の仲間らしき男がセイジを囲むようにして立っている。
その中に“風神”の元メンバーの顔もあった。
どうやらセイジのアジトは他にもあったらしい。
もっと調べておくべきだったなと悔やんだ。
「セイジさん。そろそろです」
仲間の一人がセイジに声をかける。
セイジは小さく頷くと、ソファから腰を上げた。
「黙らせろ」
するとぎゃあぎゃあとわめくカズが煩わしかったのか、仲間がカズの口にガムテープを貼りつけた。
「これで少しは静かになった」
そう言ってセイジは仲間とその場を離れた。
たった一人、カズを残して。