B L A S T
「さすが秀才は目指す目標が高いね」
そう言って皮肉交じりに入って来たのはガヤだ。
今年は猛暑だったからか以前よりも肌の黒さが増している。
「ちょっと余所見しないでよ」
その隣で由希がガヤを睨みつけた。
「だってよこんな数式を解けって言われたって何を解きゃいいのか分かんねえんだよ。大体これ数学なのかよ。英語だろこれ。おりゃ横文字は苦手なんだよ」
ぶつぶつと文句ばかり言うガヤに由希は呆れたようにため息を吐いた。
「大学行きたいんじゃないの?」
「…そうだけど一回落ちると気持ち的に萎えたつーかさ」
ガヤは高校は卒業できたものの、何を急に思い立ったのか就職ではなく進学を選んだ。
だけど勉強不足もあって結果一浪生活を送ることになってしまったのだが、まだ進学を諦めきれないようで時々由希やジュンにこうして勉強を教わっている。
ガヤが一番年上なのに。
彼にはほとほと呆れてしまう。
由季はコーヒーを一口飲むと、ぼそっと小さく呟いた。
「お兄ちゃんは入院しても大学受かったのに」
途端に、それを聞いたガヤの目色が変わる。
「うるせえ!あいつと比べんな!」
「だったら四の五の言わずに勉強しなさい」
「分かったよ!やりゃあいいんだろ、やりゃあ」
チッ、と舌打ちを鳴らしてガヤは問題集を睨みつける。
ジュンがこっそり耳打ちをしてきた。
「あの二人、何気に気が合ってるよね」
うん、と楓は頷く。
「これでやっとあたしの荷が下りたって感じ」
それからもガヤはなんだかんだ言って由希に怒られながらも教わっていた。
あたしはガヤが次こそ大学に合格できるように心の中で祈った。