B L A S T
「楓ちゃんだけだ。あの男にそんな口が聞けるのは。あたしが同じことをしてみろ、血を見るわ。いやあの世を見るかもしれんね。それぐらいあの男は凶暴なんだから。総長だかなんだか知らないけどあそこは関わると厄介だでね。触らぬ神に祟りなしっちゅーことはこういうこと言うんだわ。あーこわこわ」
ヘルメットのサイズが大きいせいか、前がよく見えない。
今日こそは学校を休もうと思っていたのに、いつの間にかガヤに連れられて学校に向かっている。
バイクを歩道の端に止めると、ガヤが振り向いて言った。
「学校、さぼるなよ」
楓は無言でそっぽを向きながらバイクを降りた。
ガヤがため息を吐く。
煙草臭い。
「出席日数ヤバいんだろ。今日も学校休む気だったか知らねえけど、おれに怒っても後々困るのはお前なんだからな」
「うるさいなあ。ガヤに言われたくないよ」
族のくせに。
「おれはこう見えて皆勤賞目指してるし。お前、知ってるか?あの賞もらえる喜びといったらあんな嬉しい―――」
「じゃあね、バカガヤ」
ヘルメットをガヤに押しつけると、逃げるようにその場を走り去った。
後ろから自分を呼ぶガヤの声が聞こえたけれど無視。
ガヤと一緒にいるところをまた学校の連中に見られたらたまったものじゃない。
こないだは机に「族女」なんて書かれたし。
油性ペンのせいで消すの苦労したし。
おかげで今ではもう誰も近づいてこない。
高校入って早々、予想はしていたけれどまさか友達がひとりもできないとは思わなかった。
ひとりの辛さに耐えきれなくて引きこもりがちになったことを心配してか、ガヤが毎日のように送り迎えしてくれるけれどそれも学年中の噂の的。
ついには楓が「総長」なんて言われる始末だ。
暴走族の知り合いがいるだけでこの扱い。
偏見って怖い。