B L A S T
"無敵の楓チャン"か。
そういえば昔ガヤによく呼ばれていたっけ。
あの頃のガヤはほんと可愛かったよな。
ハナタレ小僧だったけど。
しみじみと昔を思い出していたら、
「"無敵の楓チャン"。おはよーう」
背後から投げかけられた声に、楓の口元は引きつった。
…もしや。
振り向かなくても分かるその声は。
どうか空耳であってほしいと願うが、その希望はすぐに打ち砕かれる。
「あの男、嬢ちゃんの前だと感じ変わるな」
「"無敵の楓チャン"だってよ。ウケると思わねえ?」
「トラックに当たっても無傷だもんな。さすが"無敵の楓チャン"だ」
「"無敵の楓チャン"はマジウケるし。つーか朝はやっぱコーラだろ」
ガシャン、と自動販売機で缶の落ちる音がした。
無敵の楓チャン。
無敵の楓チャン。
無敵の楓チャン…。
というか朝はやっぱりコーヒーでしょ。
って今そんなこと言ってる場合じゃない!
――ひとまず、逃げるが勝ち!
楓は振り向かずにそのまま学校までダッシュで走った。
「おいこらてめ、女!待ちやがれ!」
案の定彼らは追いかけてきた。
何事かと周りの生徒が驚いて振り返る。
これでまた学年中の噂の的になってしまうのかと思うと、楓は後ろを振り返ってきつく睨みつけた。