B L A S T
「手ぶらで授業受けるつもり?嬢ちゃん」
そう言って、タクマは紺色の学生鞄を振り回していた。
それは今朝ずっと探していた楓の学生鞄。
まさかとは思っていたが、どうやら彼らのプレハブに置いて帰ってしまったようだ。
「返してほしけりゃ取りにおいで。"無敵の楓チャン"」
タクマは立ち止まり、学生鞄を得意げに見せた。
――また会おうやあ。
昨日の帰り間際に言ったタクマの怪しげな笑顔が思い浮かぶ。
あいつめ。
絶対確信犯だ!
どこからか爆音が鳴り響いた。
狭い道路にもかかわらず、タクマの背後から車が猛突進で走ってくる。
それは見覚えのあるパールホワイト。
先生が慌てて両手を振って止めに入ったが、その車は勢いを止めない。
あと少しのところで先生が避けたからよかったものの、下手をすれば人身事故が起きているところだ。
いくらなんでも運転が雑過ぎるんじゃないか。
校門を数キロメートル過ぎたところで車は停まった。
何かの合図のように、ブレーキランプが数回点滅する。
「嬢ちゃん、悪りい。今日のお勉強は諦めてな」
楓が呆然としていると、その隙を狙ってタクマが強引に腕を引っ張ってきた。
「ちょ、ちょっと離してよ!」
――また拉致られる!?
「先生、助けて!」
しかし楓の叫び声はむなしく、還暦間近の先生はひき殺されそうになったショックで腰を抜かしていた。