B L A S T
きっと彼が負った傷は計り知れない。
たかがチームを抜けると言っただけで、暴力を振るうなんて言語道断だ。
犯人の顔が見てみたいものだと思った。
深いため息を吐いてから楓ははっとする。
――まさか。
目の前の男二人に疑いの眼差しを向ける。
すると楓の意図が分かったらしいタクマが慌てて両手を交互に振った。
「違えよ、嬢ちゃん勘違いすんなよ。オレらがやったんじゃねえ。やったのはWAVEっつー弱小チームだ。事件が起きてとっくの昔に解散したけどな」
それを聞いて安心した楓は温くなったコーヒーを一気に飲み干す。
「ビビッてんじゃねえよ、バカ女が」
カズが憎たらしい笑みを浮かべて、灰皿に煙草を押しつけていた。
一般人なら誰だって殺人未遂事件と聞けば怖じ気づく。
ビビッちゃ悪いんですか?
そう問いたくなるけれど、睨まれるのが目に見えているからあえて黙った。
「そもそもジュンはBLASTのメンバーじゃねえんだ」
とタクマが言った。
「テツと同様、熱狂的ファンみてえなもんでさ。毎日のようにイツキや藤ヶ谷のあとをちょこまかくっついてた。よく言えば可愛い後輩みたいなもんだ。ただジュンはBLASTのメンバーになりたかったみてえで、何度も入れてくれって頼みこんでた。でもイツキがそれを許さなかったんだ」
「…どうしてですか?」
「ジュンにはオレらと違って可能性がある。真っ当な道を進んでほしいんだとさ」
楓はなんとなくその意味が分かった。
写真に写るジュンの制服は誰もが知っている有名私立中学校の生徒だと意味している。
偏差値は全国でトップクラスに入るほどだ。
それがどうして無縁のはずの暴走族に入ろうと思ったのか不思議で仕方ないが、イツキはきっと彼の将来を考慮して拒んだのだろう。