B L A S T
階段を降りて左に曲がったところに、楓の行きつけの場所がある。
その扉を開けると、江原良子先生がインスタントコーヒーを入れているところだった。
「わっあたしもコーヒーちょうだい」
「こーら。授業中は病人以外立ち入り禁止」
コーヒーの入ったマグカップを取ろうとした楓の手を江原先生がぴしゃりと叩いた。
「痛ーい!あたし病人だもん」
「どこが」
大きな目で睨まれて楓は怖じ気づいた。
「…胃が痛いです」
「胃が痛いならコーヒーは飲めません。さっさと授業戻りなさい」
「ほ、ほんとですよ。先生ってば保健医のくせに病人にそんな冷たくしていいんですか」
楓が拗ねて口を尖らせてみせても江原先生は気にも止めない。
黙々と事務机の前でコーヒーを飲んでいる。
理由もなく毎日のように入り浸っているせいか、温厚で有名な江原先生も心を鬼にしている様子だった。
仕方ない。
今日はおとなしく授業受けることにするか。
気は進まないが、楓は諦めて教室に戻ろうとした。
「真田さんも強くならなきゃだめだね」
振り返ると、江原先生はいつの間にコーヒーを飲み終わったのか、マグカップを水道水で洗っている。