B L A S T
それにしても。
鞄の中にあった茶封筒が目に入る。
――分かりました。あたしに任せてください。
タクマやカズの勢いに負けて、思わず引き受けてしまったけれど、本当に大丈夫だろうかと不安になってしまう。
ジュンとは初めて会うのに、彼らの架け橋となるかもしれないこの手紙をうまく渡せるのだろうか。
それにガヤに隠れて渡さなければいけないし、今になって自信がなくなってきた。
いっそのことこのまま逃げてしまいたい。
しかし楓の不安をよそに、無情にもエレベーターの扉は開く。
受付の人が言っていたとおり、すぐ目の前に302号室があった。
辺りを見渡すと、左奥の長椅子にどっしりと腰掛けた小太りの若い男がじろり、とこちらを睨んでいた。
チューインガムをくちゃくちゃと音を鳴らして噛んでいる。
見るからに柄の悪そうな男だ。
――ジュンの周りは"風神"の奴らが見張ってる。だから迂闊に近づけねえ。
もしかしたらあれがカズとタクマの言っていた"風神"の見張り役だろうか。
楓は恐る恐る頭を下げる。
男は軽く会釈を返してから、ゆっくりと近づいてきた。
「何かご用ですか?」
「あっえっとジュン、井原純平くんのお見舞いに来たんですけど…」
一瞬男の目が鋭く光り、楓はたじろぐ。
…怖い。
「失礼ですけどどちら様で?」
どうやら男は楓に対して不信感を抱いているようだ。
「あっ楓、真田楓です」
「サナダカエデ…。どっかで聞いたことあるな」
そのまま男は考え込んで動かなくなり、しばらくしてあっと大きな声を上げた。
そして慌ててガムを吐き出したと思ったら、突然男は勢いよく頭を下げた。
「失礼しました!楓さんが見えるとは思っていなかったものですから!総長にはいつもお世話になってます!」
男の一変した態度に楓はあ然とする。