B L A S T
Act.7
満月が妖しく光っている。
生気を失った街は外灯一つ見当たらず、どっぷりと暗闇に浸かっていた。
「この辺りは治安が悪いからねえ。なにせ不良の輩が集まるところだ。気をつけるんだよ、お嬢ちゃん」
「はいありがとうございます」
タクシーの運転手にお釣りを受け取って車を降りると、すぐ目の前にある廃校に駆け込む。
"立ち入り禁止"と看板が掛けられた正門をくぐり抜け、急ぎ足であのプレハブに向かった。
しかし電気が点いておらず、プレハブは留守だった。
なんだ。
いないのか。
せっかくここまで来たのに。
落胆してBLASTと落書きされた壁にもたれ座る。
するとかすかに物音がして、顔を上げた。
耳を澄ませば、歓声と小さなボールが行き交わるような音。
それは体育館のほうから聞こえていた。
「29、30、31、32……いいぞーその調子だ!」
中を覗いて驚いたのは壁際に無数のバイクが並んで、点灯したランプで屋内全体が明るくなっていた。
その中央で大勢の男が一台の卓球台を囲んでいる。
「掛け金無駄にすんじゃねえぞぉ!」
ラリーが続く度に歓声は上がり途切れるとふざけんなと罵声が卓球台に飛びかかる。
一見、素人同士の何てことのない試合だが、彼らは勝ち負けの結果ではなくラリーが一体どこまで続くか賭けている最中らしい。
その中で一人だけ離れたところで卓球台のボールが交互に行き来するのをぼんやりと眺めている男がいた。
首筋に昇り竜のタトゥー。
――イツキだ。