B L A S T
やがて煙草の煙が消えるとき、イツキの口から出たのは彼らの期待を裏切る言葉だった。
「一度決めたことだ。もう諦めろ」
煙草の吸い殻をメンバーの一人に託し、イツキは静かにその場を離れた。
甘い香りが残されたメンバーを包む。
「総長、変わったよな」
ぽつり、とその一人が呟いた。
「一年前だっけ。ジュンがリンチされた事件。まだあの事件のことで責任感じてんのかな」
「気持ちは分かるけどよ。ぶっちゃけオレとしちゃそんなことで辞退するなって思うよ。オレが知ってる総長はあんなんじゃなかった。総長は顔に出さねえけど誰よりも全国制覇を狙ってて、がむしゃらに突っ走ってたはずなんだ」
「今じゃなんか守りに入ってるって感じするよな」
「どうするよこれから」
「藤ヶ谷さんところに行っちまうか」
「"風神"だったら全国制覇も夢じゃねえしな」
「おいおい。あれだけ総長の元がいいって言ってたくせに悪い男だな、おまえら」
「人間、諦めが肝心よ」
乾いた笑い声がやけに耳に響いた。
彼らの顔を見れば、本当はBLASTを手放したくないことは痛いほど分かる。
きっとここにいるメンバー全員がそうだ。
楓は体育館を後にし外に出た。
プレハブの一階の電気が点いている。
ノックをするも反応がなく、ドアノブを回すと不用心にも鍵が開いていた。
中へ入ると、冷蔵庫の前でミネラルウォーターを飲むイツキの後ろ姿があった。