B L A S T
「今日はありがとうございました」
閉静な住宅街を照らす外灯はたくさんの虫が飛び回っている。
楓は自宅まで送ってくれたイツキに深々とお礼をした。
「いやお礼を言うのは俺のほうだよ」
そう言ってイツキはポケットから茶封筒を取り出す。
その口元は苦笑いを浮かべていた。
「あいつらに厳しく言っておかねえと」
ブルル、とエンジンの音がかかる。
「あ、あの」
バイクに跨ろうとする彼をとっさに呼び止めてしまう。
「どうした?」
楓は何と声をかけていいのか迷った。
もうイツキと会うことはないのだろうか。
そう思ったら、口が勝手に動き出した。
「また会えますか?」
遠くで犬の遠吠えが聞こえる。
外灯の下で彼の表情が曇ったのが分かった。
しばらくの沈黙。
そして、
「もう来るなよ」
返ってきた言葉は冷たいものだった。
「あの場所はあんたがくるところじゃない」