もう一度、はじめから
　わたしはチャリという名の愛車を気だるくこぎながら学校へ向かっていた。学校が近づくにつれ、ピアノやら管楽器やらの音が聞こえてきた。後期も始まったばかりなのに、みんな必死で試験曲の練習をしている。
　あたしは毎朝、みんなの必死の音を聞きながら、学校までの残り数百メートルを走る。
「ちか、おはよう！」
　あたしが愛車に鍵をかけていると、低血圧なあたしにはきつい声があたしを呼んだ。桃だ。
「おはよ……」
　テンション低っ、桃はもうっと少しむくれて先を歩いた。
　桃はこの学校で友達になった、ピアノ科の子だ。電子音楽を勉強しているあたしとは違い、ちゃんとクラシックを勉強してきた、音楽大学に相応しい音楽家だ。
「ばっかじゃない!?後期なんてまだ始まったばっかりだよ!?試験はまだ先なのに!」
　桃は、顔はとても可愛いのに、その口から発せられる言葉は、まるでアフレコしてあるのではないかというくらいキツい。
「桃、試験曲は？」
「さあ」
　まるで他人事のようにつらっと答えた桃を見て、仕方ないなと思いながらも、そんな桃が可笑しくて笑ってしまった。
　もうっ、桃はまたむくれて、あたしの先を行った。
< 2 / 14 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop